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  • FarEastCraft は、現在準備中です。

    2017/04/27 05:13

     2016年の観光客数は過去最大の2403万人を記録しました。官民の努力の甲斐もあって喜ばしい事ですね。ただ以下のGDPに対する国際観光収入の統計から分かるように各国に比べると日本はまだまだ観光産業は小さすぎるのです。

     

     

    総務省と観光庁は「訪日外国人旅行者の国内における受け入れ環境整備に関する現状調査」という調査を行いました。その中には「旅行中に困ったこと」という質問項目があります。結果は以下のようになりました。

    ・「無料公衆無線LAN環境」(46.6)

    ・「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない(英語が通じない)」(35.7%)

    ・「多言語表示(観光案内版等)の不備」(20.2)

     

    「まぁ言われてみれば」といった結果でしょうか。

     これらの不満はあくまで表面的なものですし対処のしようもいくらでもあります。しかし、込み入った聞き方をしていくと、外国人の本音からはより本質的な課題が見えてきます(街頭インタヴューなどでは普通は当り障りのない外交的なフレーズしかいいません)

     

    私の周りで「日本で不快に思った事」、「違和感を感じた事」などを聞いてみると、圧倒的に多かったのが日本の「おもてなし」に対しての違和感でした。印象的なものをいくつか紹介します。

     

    ・「テネシー出身だという理由で勝手にジャック・ダニエルを注文された。悪意はないのは分かるけど、あまりにも一方的な善意。」(アメリカ)

     

    ・「老舗の旅館を予約したところ夕食のサービスが義務だった。三泊だったので一日は街を探検して良いレストランを探そうと思っていたが、応じてくれなかった。“素泊まり”は彼らにとって侮辱にあたるのだろうか?(真顔)」(オランダ)

     

    ・「”90度のお辞儀の持つ形式美に対して敬意を示すべきである事は理解しているが、そんな事よりも人間的な会話をして欲しかった。」(チベット)

     

    なんというか、その光景がありありと想像出来てしまって耳が痛いです。こんな風に言われてしまった人達には悪意はなかったでしょう。しかし本来「おもてなし」とは「相手の気持ちを思う」事から始まるものであり、自分が良かれと思った事を一方的に押し付ける事ではない筈です。

     

    老舗料亭が素泊まりを認めない例などは、店側の都合が顧客の気持ちより優先されていると捉えられてしまっても仕方がありません。

     

    小西美術館館長のテービット・アトキンソン氏は著書・新観光立国論の中でこんな指摘をしています。

     

    「海外の多くの国において、レストランでの食事の途中や食事が終わった後、あるいはホテルからチェックアウトをする際、必ずと言っていいほどHow is/was everything? と聞かれます。サービスに対して不満はないか、確認をするわけですが、このような習慣は日本には少ないのではないかと指摘する外国人が多いのです。」

      

    もし本当に外国人に満足して貰いたいのなら(というか日本人も含めて)アトキンソン氏の指摘する通り「How is everything?」のような問いかけから「おてなし」を始めるべきではないでしょうか。相手がその時どう思っているかを知るには直接聞くしかありません。そもそも文化も国籍も違う人の意向を“汲む”なんて不可能です。

     

    総務省は「オリンピック・パラリンピックおもてなしグループ」という(もう名前が完全にアレだが)協議会を立ち上げ、「ICTによる最高のおもてなし」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000295307.pdf)という議事要旨を公開しました。

     

    要旨では入国手続きの簡易化、交通手段の円滑化、ユニバーサル環境の整備などを取り組むべき施策として挙げています。その施策自体を否定するつもりはありません。ただその内容は完全に独りよがりで、なんというか、的外れなのです。

     

    良き臨床医はいきなり検査や治療をオーダーするでしょうか。必ず「いま一番困っている事は何ですか?」と患者にオープンクエスチョンで問いかけ、主訴を聞き出す事から医療を提供します。優秀なコンサルタントもまた「いま一番困っている事は何ですか?」とオープンクエスチョンから問題点を抽出します。それが、過剰医療(もしくは過剰サービス)を防ぎ、問題解決をする上で最も効率的な手段だと知っているからです。

     

    「一方的な善意」、「自己満足なおもてなし」こんなすれ違いはどうしても避けたいですよね。日本がこれから本物の「おもてなし」で観光立国を目指すならば、「何か困った事はありませんか?」といった問いかけから始めるべきなのかも知れません。